変化する空爆

登場した新型通常兵器

 

●ナパーム弾

 1950年に始まる朝鮮戦争では、国連軍の名のもとに大量のナパーム弾が投下されました。日本の空爆に使われた焼夷弾もナパーム弾の一種ですが、さらに威力を高めたものでした。
 当時米軍占領下だった日本は横田(東京)、嘉手納(沖縄)をはじめ、複数の米軍キャンプが米空軍の出撃基地となったのです。

 

●枯葉剤とクラスター爆弾

 これ以降の戦争では、核兵器の使用可能性が憂慮される一方で、「通常兵器」の性能強化がはかられていきます。1965年からのベトナム戦争では大量の枯葉剤が米軍によって空から撒かれました。枯葉剤に含まれる猛毒ダイオキシンのために、戦争が終わったあとガンが多発し、障害や奇形をもつ子どもが生まれました。また、クラスター爆弾を大量に使ったことも知られています。クラスター爆弾は数百個の子爆弾を容器に収めた爆弾で、投下されると容器が空中で爆発して子爆弾がばらまかれ、不発弾は地雷化します。そして戦争が終わった後も地中にとどまり、住民を殺傷するのです。

※クラスター爆弾禁止条約が2010年8月発効

 

●バンカーバスター弾・デイジーカッター弾

 バンカーバスター弾は地下30メートルを貫通して爆発します。デイジーカッター弾は、一瞬のうちに500メートル四方を火の海にする燃料気化爆弾です。

 

●劣化ウラン弾

 劣化ウランは、核兵器用や原子力発電用にウランを濃縮する過程で出る、低レベル放射性廃棄物です。比重が大きく、モリブデンやチタニウムと合金すると極めて硬い金属になります。しかも安価です。そのため、湾岸戦争以来、弾芯に劣化ウランを利用した対戦車砲や軍艦の対空機関砲に使われてきました。

 高速で飛んできた劣化ウラン弾は標的に衝突し、貫通するとき摩擦熱で瞬時に燃焼し、酸化ウランの微粒子となって空気中に漂います。微粒子は呼吸や飲食を通じて体内に取り込まれると内部被ばくをひきおこします。湾岸戦争以降、米軍や英軍などの帰還兵の多くに、頭痛・めまい・白血病・腎臓肝臓不全等があらわれ、帰還兵の子どもにも先天性障害や白血病が出ています。イラク、ボスニア、コソボで、特に子どもたちに深刻な健康被害が出ていますが、アメリカ軍もアメリカ政府も、劣化ウラン弾と健康被害の因果関係を否定しています。

 イラクでは湾岸戦争(イラク軍のクウェート侵攻に対し1991年、米軍・多国籍軍がイラクを攻撃)以後、急激に増え続ける子どもたちの白血病やガンに対応するため、1993年バクダッドの二つの小児病棟に白血病専門病棟が設けられました。しかし経済制裁の影響で医薬品は不足、十分な治療は受けられません。サファアは森住卓さんが取材で訪れた病院で出会った少女でした。

サファアの笑顔

森住卓さん撮影(1998年4月末マンスール小児病院にて) ©森住卓

 ――その直後、病院の横を流れるチグリス川からそよ風が吹いてきて、サファアのショールを剥ぎ取ってしまった。彼女の頭にはうっすらと産毛のようなものが生えていた。アラブの女性の誇りである黒髪はなかった。私がサファアに会ったのは、白血病専門病棟の玄関だったのだ。隣にいたお母さんが、「この子は治ったから帰るのではないのよ。薬がなくなってしまったので仕方なく退院するの」と不安そうに言った。でも、彼女は無邪気にも、自宅に帰れる喜びでいっぱいの笑顔をレンズに向けてくれたのだった。(『イラクからの報告』より)

 

1990年以降の空爆

●ピンポイント攻撃

 ――1990年代、湾岸戦争やユーゴ空爆では無辜の地域住民を殺傷する空からの攻撃への非難をかわすため、アメリカなどは「精密誘導兵器によるピンポイント爆撃」を強調しました。湾岸戦争では、イラク軍の軍事施設を精密誘導ミサイルで破壊する場面がテレビで繰り返し放映され、メディア操作も行われました。しかし実際には、多くの民間人が巻き添えになったのです。ピンポイントの精度の問題の他に、爆撃目標の選定情報に間違いもあります。住民にとっては、実質的に無差別爆撃と変わりません。

 

●NATO軍の「死傷者ゼロ」ドクトリン

 ――戦争参加に反発する国内世論をなだめるため、米欧各国は自軍の損害を最小限にしようと努めました。1999年のユーゴ空爆でNATO軍の出撃は2万回におよびましたが、撃墜されたのは2機のみ。パイロットの死者はありませんでした。 
アメリカはこの戦争で初めて「見えない飛行機」ステルス機(超重爆撃機B2)を出動させました。

 

 空からの一方的な攻撃は、戦争による死傷者の数も非対称にしました。9.11後のイラク攻撃から2008年3月までの民間人の死者は、約8万9000人から16万人と推定されています。米兵の死者3975人とくらべ、犠牲の差は歴然としています。そして殺される者には相手が見えません。殺す者は相手の痛みへの感受性が欠落します。無人機攻撃では一本の指で「兵士なき戦場」をつくりだします。

 これまで人類は多くの残虐な兵器を生み出し、犠牲者を出してきました。一方で、そうした兵器を法的に禁止し、廃絶するための努力も続けてきました。生物化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、クラスター爆弾禁止条約等々—。しかし空爆距離・領域の拡大によって、今や宇宙空間さえも兵器化されようとしています。これを止めなければ人類の未来はありません。